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トピックス

本院で発生した医療事故について

患者さんおよび関係各位

平成19年8月3日

医療事故調査報告書概要

1.はじめに

この報告書は神戸大学医学部附属病院において下肢動脈の血管内治療中に発生した医療事故(以下、本件とする)について、その原因の究明と問題点の分析、再発防止策の策定のために設置された医療事故調査委員会の調査結果を取りまとめたものです。

2.医療事故調査委員会設置の趣旨と役割

医療事故調査委員会(以下、調査委員会とする)は、本件の発生原因を徹底的に究明し、問題点を分析し、同様の事例が発生しないために安全な防止策を策定し病院へ提言を行うことを目的として外部委員を含めた医療事故調査委員会が設置された。

3.本件医療事故の概要

患者さん(兵庫県在住80歳代男性)は平成18年11月下肢動脈の動脈瘤が破裂し、血行障害を来たし、本院の心臓血管外科に入院した。入院後、手術室において全身麻酔により下肢動脈瘤切除及びバイパス手術を行い、人工呼吸器を装着して集中治療室に帰室した。

その後、下肢の血流が改善しないため、血管造影室に移送して血管撮影を行い、その所見により、カテーテルによる血栓溶解術の治療を引き続いて行った。治療後、顔面が蒼白で、治療の時に使用した可搬型人工呼吸器の回路がはずれていることに気づいた。直ちに昇圧剤の投与などを行い、救命は出来たが、低酸素症による脳の高度機能障害が残存している。

4.本件医療事故に関する検討事項

本件に対して根本原因分析(Root Cause Analysis)を行い、根本原因として(ア)血管内治療中の呼吸管理の問題、(イ)可搬型人工呼吸器の取り扱いの問題、(ウ)夜間の血管造影時のマンパワーの問題、の3点が挙がり、それぞれの項目について検討を行った。加えて、(エ)可搬型人工呼吸器のチューブが外れたことと、心肺停止、その後の状態悪化との因果関係について検討を行なった。

(ア)血管内治療中の呼吸管理の問題点として、人工呼吸中であるにもかかわらず、呼吸のモニタリングができていなかった。

その理由として

  1. 医師が現場で検査および隣接する操作室で窓越しに検査の推移を見守っていたが、誰が患者の全身状態を継続的に観察するのか、責任が明確ではなかったことが挙げられる。
  2. 血管撮影室において、呼吸のモニターとして経皮的酸素飽和度モニターを装着したがうまく測れなかった。その場合、代替の方法として1)血液ガスの測定、2) 炭酸ガスモニターの装着、3)胸部の聴診と胸郭の動きの観察、4)可搬型人工呼吸器の気道内圧計の観察があるが、そのいずれの方法もとられていなかった。
  3. 循環系のモニターとして心電図と自動血圧計のモニターを装着した。心電図は操作室で観察できたが、血圧計は操作室からは見えなかった。心電図、血圧モニター以外に呼吸器系のモニターも呼吸の異常を早期に発見するためには必要である。
(イ)人工呼吸器の取り扱いの問題
  1. 本事例に使用された可搬型人工呼吸器は酸素駆動で動き、携帯型で小型に出来ている。そのため本機は本来、搬送および緊急蘇生に使用するための呼吸補助器である。本事例に使用された可搬型人工呼吸器には気道内圧アラームがついていないものであった。可搬型人工呼吸器のチューブがはずれた場合、規則的な作動音は聞こえるが、アラームが鳴る機種ではなかったため、チューブがはずれたことに血管造影室内にいる医師達は気づかなかった。
  2. 本事例では可搬型人工呼吸器にはディスポーザブルのチューブが取り付けられていた。このチューブは軽い力がかかっても外れる可能性がある。
  3. 短時間で検査が終了し、集中治療室か手術室にもどる可能性があると考えたため、より安全性の高い人工呼吸器を使用せず、患者移送時に使用した可搬型人工呼吸器を継続して使用していた。本可搬型人工呼吸器の使用法について、最初に購入した後は一部の部署を除いては行われていなかった。
(ウ)夜間の血管造影時のマンパワーの問題

本件で血管造影は主として医師と放射線技師(途中退室)のみで行われていた。深夜帯において、看護師は救急外来と放射線部の兼務であり、本件患者の血管造影撮影の際には看護師は救急外来の患者対応のため血管造影室から離れざるを得なかった。看護師が夜間緊急検査対応のできる体制の整備がのぞまれる。

(エ)人工呼吸器のチューブが外れたことと、心肺停止、その後の状態悪化との因果関係について
  1. 事故発見20分前まではバイタルサインは落ち着いていた。事故発生4分前には血圧92/56mmHgであった。その時医師は患者が自発呼吸が出来たのを確認している。事故発見3分前には血圧が91/mmHgあった。事故発見時にチュ−ブが外れていたのがわかったが、チューブが何分ぐらい外れたのかは判らない。事故発見時に大腿動脈拍動触知、心拍数 57回/分であった。この3分間で血圧低下が起こった。心停止になっていたのは最大2〜3分あるかないかと考える。
  2. この時採血された動脈血液ガスの結果は、PH 7.254、PaO2 48.3 mmHg、PaCO2 25.6 mmHg、BE −14.8であった。この血液ガスのデータをみると代謝性のアシドーシスがあった。発見後心臓マッサージはすぐに行われている。血圧低下・心停止の原因として腎不全と下肢の疎血も考えられる。その後の血液データは改善していた。
  3. 意識障害が残存している原因としては、循環の問題なのか、呼吸停止によるものなのか、さらに術前より脳梗塞があったことから、酸素供給が不足したことにより意識障害が増悪したことも考えられる。循環器系の問題か、呼吸の問題か、それに加えて以前より存在していた脳梗塞の影響も考えられ意識障害との因果関係の判断は難しく、種々の要因が複合して起こった可能性がある。

5.再発防止策の提言と是正計画

本院では本件医療事故発生後、直ちに各部門の長に対し可搬型人工呼吸器使用に関する注意喚起が行われた。また、当該診療科から下記の是正計画が提出された。

「重症患者の血管造影室での検査中は医師の役割分担を行い、患者の全身状態を継続的にチェックする者がいなければならない。また血管造影室での検査中は、必ず、現場にある人工呼吸器を使用し、簡易式の人工呼吸器を使用してはならない。」

調査委員会は、以上に述べた検討にもとづいて、同様な事例の再発防止のために、さらに下記の提言を行う。

  • (ア)血管造影検査、血管内治療中の患者観察、全身管理の強化
  • (イ)人工呼吸器等の医療機器の使用に関する教育の徹底
  • (ウ)安全を重視した人員配置

上記の提言と是正計画については本年2月の医療安全必修職員講習会で職員に周知し、また、4月には、救急・放射線部の看護師の増員により夜間の緊急検査、血管内治療の応援態勢を強化した。さらに、今後調査委員会の提言を受けて再発防止策として下記のことを取り組む必要がある。

  • (エ)全身麻酔、鎮静下、人工呼吸器下で行う、血管撮影、血管内治療の患者観察のガイドラインの作成

6.おわりに

本件医療事故は、夜間の下肢動脈に対する血管内治療中に患者さんに呼吸、循環障害が起こり、意識障害が生じたものです。意識障害の原因に関しては医学的に完全に解明できなかった点もあったが、血管内治療中の全身管理や可搬型人工呼吸器の使用に関して様々な問題点が指摘されました。患者さんならびにご家族の皆様に、今回のような事態を招いたことを深くお詫び申し上げます。本院は指摘された問題点と提言に基づいて、改善策を策定し、周知徹底しました。今後それを実行されているかどうか、検証し、再発防止に努めなければならないと考えます。

神戸大学医学部附属病院 (平成19年8月)

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