第66回 救命救急科

2024.08

Interviewee 神戸大学先進救急医学講座 特命教授 山田 勇

 

サンプルイメージ

職歴

平成3年 6月 神戸大学第一外科入局 研修医〜神戸大学関連病院外科出向 
平成 10年 3月 神戸大学大学院医学研究科単位修得(病理学)
平成22年 7月  神戸大学肝胆膵外科学講座 特定助教
平成23年 4月  兵庫医科大学救急災害講座 臨床講師
平成30年 4月 神戸大学救急医学講座 特命准教授
平成31年 4月 神戸大学救急医学講座 准教授
令和6年2月 神戸大学先進救急医学講座 特命教授 

Interviewer 神戸大学 救急災害医学講座 医員 稲田雅美 

サンプルイメージ

職歴

令和2年 4月 東海大学附属病院 初期研修医
令和4年 4月 東海大学 救命救急医学講座 医員
令和4年 9月 神戸大学 救急災害医学講座 医員

代替文字
稲田先生
救急医の役割とは何でしょうか?
 
 
代替文字
山田先生
世の中には病気にかからない人はいません。不幸にも病気が急速に進行し重症化・生命危機に陥ってしまった時に、まずは生命維持に関わる呼吸や循環動態を改善(蘇生)し、原因診断・治療を行える状態にすることが必要となります。病気がどんな原因であれ生命危機にある状態(危篤状態)では診断や治療が十分に行えません。診断がついていない危機的重症患者は救急搬送にて病院到着後まず救急医が対応にあたります。そこから生命危機にある患者に医療介入を行い状態を安定化させ、おおよその原因を診断、病態に応じた専門医に引き継ぎますが、施設や場合により救急医がそのまま最後まで治療にあたる場合もあります。なぜなら救急医としてのみならず、外科や放射線、循環器など他の専門領域にても修練を行いサブスペシャルティーを獲得している救急医が多くいます。 このように救急以外のサブスペシャルティーを獲得した救急医は、救急外来や集中治療室で重症病態の診断と治療を同時に進め、患者を速やかに安定化し、初期蘇生から治療~集中管理、そして退院まで自分たちで治療方針を立案し一貫した治療を行うことが出来ます。 患者の高齢化が進み、患者が多くの合併症(併存疾患)を持っている事が普通となり、これまで以上に多くの科が協力して連携医療を行う必要が出てきました。しかし、最近の現代医療では医療レベルが高度するにつれ専門性が高くなり、総合力いわゆるジェネラリティーが失われつつあります。もちろん学問として専門性を高める事は必要です が、全人的な観点から総合的な診療することが難しくなってきています。 サブスペシャルティーを持ち、幅広い専門知識を持った救急医はこのような命に瀕する患者を病院でまず最初に診断‧治療する責務をもち、患者に呼吸器疾患、循環器疾患、消化器疾患などの複数の合併・併存疾患があった場合に各科の専門医師らと協力し、自らは治療を統括する立場となり得る事が可能で、ER(救急外来)から手術室~集中治療室まで患者の治療をシームレスに最後まで完遂することができます。これらが救急医の役割・責務です。その他には災害時の医療派遣なども救急医の仕事となります。
 
代替文字
稲田先生
神戸大学の救急科専門研修プログラムの特徴について教えて下さい。
 
 
代替文字
山田先生
当院には日本救急医学会救急科専門研修プログラムがあり、連携病院、関連病院での研修期間も含めて3年間で救急科専門医を取得することが可能です。当院救命救急センターは、主に神戸市内 の2次、3次救急を担っております。年間救急搬送件数は約3000件ですが、入院率が9割で、非常に緊急度の高い重症患者が数多く搬送されます。症例は内因性疾患から外傷、救急特殊疾患などバラ エティに富み、豊富な症例を学ぶことができます。また院内の他診療科との連携も良好で、診療科と協力し幅広い多様な救急疾患に対応しています。 さらに当救命救急センターでは、プレホスピタルから集中治療まで幅広く学ぶことができます。兵庫県防災ヘリも共同運航で週2回(月曜日と水曜日)神戸大学が担当しており、ドクターカーシステムも現在準備中です。研修プログラムの中で関連施設でもドクターヘリ‧ドクターカーなどプレホス(病院前救急)診療を学ぶこともできます。 また救急科専用の集中治療室(ECU)も担当しており、重症患者に対する循環‧呼吸管理はもちろん、栄養‧リハビリなど集中治療後症候群を防ぐために1日に2回全体カンファレンスで患者の病態・治療方針についてディスカッションしています。 DMAT救護班派遣などの災害医療にも力を入れており、最近では2016年の熊本地震、2018年の大阪地震、2019年の広島‧岡山豪雨災害、2023年のG7広島サミット2024能登半島沖地震にもチーム派遣実績があります。 また大学病院のみでなく兵庫県内の公的基幹病院の救命救急センター、関連病院として地域における1〜2次救急を担う市中病院での研修が組み込まれています。大学病院勤務中は医療協力としての外勤先として、神戸市内外の一般救急病院や、療養型病院などの研修も希望でき、common diseaseを含む多種多様な症例を数多く経験できます。また毎日のカンファレンスはもちろんのこと、カンファレンス前に毎日10分間モーニングレクチャーを行っており、臨床に役立つ知識を日々学ぶことができます。現在は対面とWebのハイブリッドカンファレンスシステムを行っており、毎日のカンファレンスがどこからでもアクセス可能です。また学会発表や救急手技実習などのオフザジョブトレーニングも積極的に指導しています。
 
代替文字
稲田先生
最初の救急医の仕事とは?の回答にもありましたが、災害時の救急医の役目について教えて下さい。
 
 
代替文字
山田先生
災害医療とは需要が供給を上回る状態で行う医療で、時間‧人材‧資機材が限られた状況下において内因‧外因を問わず様々な傷病に対して緊急対応が求められます。 災害はいつ起こるかわかりません。自然災害対策、テロ対策、院内での災害対策などの普段から備 えるための活動が大切です。 救急医は一般診療科の先生方と比べ、普段より救急外来で重症度に応じた患者への対応‧治療を行っていますので、災害の場面で適切な治療優先順位の決定と初期治療を行うことに慣れています。 さらに災害時では外傷に限らず基礎疾患の悪化や、被災後に突然変化した避難生活の中で内因性疾患も増加します。全ての疾患に対し重症度に応じたアプローチに長けている救急医は現場のニーズ が非常に高い医師集団です。 前述したように当院には災害医療チームDMAT(Disaster Medical Assistance Team)があります。DMATとは阪神大震災以後に災害救助法に基づいて設立され、派遣される医療救護班のうち、災害の発生直後(概ね48時間 以内)に活動を開始できる機動性を持った専門的な研修‧訓練を受けた医療チームです。 医師1名、看護師2名、業務調整員(事務員)1名の4名の構成が基本となっています。毎年の職員の移動により若干の入れ替わりがありますが、神戸大学には常に総勢30名超えの隊員が在籍しています。DMATは、地震や水害などの災害があると出動に備えて待機し、被災した都道府県の要請を受けて 出動します。出動後は、被災地の災害拠点病院の指示に従い、チームごとに救出‧救助や現場治療、広域医療搬送等を行います。救急医は災害現場で困っている方々に対しての支援活動の中心を担っています。当院の小谷教授は、1997年の阪神淡路大震災では自宅マンショションも壊れて被災者でもありましたが、震災当日から病院機能が制限された神戸大学で傷病者の治療に当たったことや、JR福知山線脱線事故では当時勤めていた兵庫医大に搬送されてきた113名の傷病者の治療に当たった経験があり、東日本巨大地震や熊本地震での救護班としての活動もしてきました。そのうえで「災害の実態は災害ごとに実に様々で教科書とは違い、経験して初めて分かることが多い」と述べられています。
 
代替文字
稲田先生
神戸大学における救急部門に勤務する医師のシフトワークについて教えてください。
まとまった休暇がある程度とれる現在の勤務体制は、旅行が趣味である私には合っていると思うのですが。
 
 
代替文字
山田先生
救急医に求められている役割は多岐にわたります。いつ来るかわからない重症患者の救急車対応だけではなく、walk in患者(自己での救急外来受診)の対応や院内急変対応は当然のこと、災害が起きれば災害時対応と多様な役割を担いますが、そのほぼすべてが予定の立たない事ばかりです。だからこそON―OFFを重視した「シフトワーク」が救急医の職場には求められています。勤務と休息のバランスを重視し、 自分の時間‧家族との時間などプライベートを充実させることができると、緊張感のある救急医療の現場に舞い戻る活力が生まれ、そうすると仕事の中でもいいパフォーマンスを発揮して全力で救急医療に立ち向かうことができるようになる。こういった好循環が生まれます。シフトワークの一番のメリットは仕事と家庭‧育児の両立がしやすいことです。当院では現在、勤怠管理アプリを導入しており、個人の連続勤務時間や一カ月あたりの労働時間が制限を超えないようにしております。また夏季休暇も1週間確保し、学会や研修参加も勤務としてとらえており、無理のない勤務体制を心がけて医局運営に努めています。
 

 


CONTENTS

HOME