TAVI人工弁
「TAVI」とはTranscatheter Aortic Valve Implantationの略語で、「経カテーテル的大動脈弁植え込み術」と訳されます。TAVIは、胸を開かず、心臓が動いている状態で、カテーテルを使って人工弁を患者さまの心臓に装着する治療法です。この治療は、心臓の弁が上手く機能せず、息切れなどの症状が出る「大動脈弁狭窄症」の患者さまで、高齢などの理由で手術をあきらめていた方に対する新しい治療の選択肢となります。 2002年にフランスで初めて治療応用に成功し、世界では欧米を中心に2013年6月現在9万例近い治療が行われて来ました。
TAVIには、2通りのアプローチ方法があります。太ももの付け根の血管から挿入する「経大腿アプローチ」、左胸の肋骨の間を小さく切開し、心臓の先端(心尖部)から挿入する「経心尖アプローチ」です。
個々の患者さまに最適な方法をハートチームの医師が選択します。いずれのアプローチにおいても少ない身体的負担で治療が可能です。
足の付け根の大腿動脈からカテーテル(細い管)を挿入します。レントゲンを見ながら痛んだ大動脈弁をバルーン(風船)である程度広げます。次にステント付き人工弁を大動脈弁のところまでまで誘導し、大動脈弁を押し広げるようにしてステント付き人工弁を留置します。 この方法は皮膚切開が足の付け根のみであるため、TAVIの中でも負担が少なく基本的な手技です。
鉛筆ほどの太さに折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを、太ももの付け根にある大腿動脈から挿入し心臓まで運びます。
生体弁が大動脈弁の位置に到達したらバルーンを膨らませ、生体弁を広げ、留置します。
生体弁を留置した後は、
カテーテルを抜き取ります。
生体弁は留置された直後から、患者さんの新たな弁として機能します。
動脈硬化や動脈瘤が原因で、経大腿アプローチが困難な方に有効な方法です。左胸に小さな皮膚切開を設け、心臓の先端からカテーテル(細い管)を挿入します。レントゲンを見ながら痛んだ大動脈弁をバルーン(風船)である程度広げます。次にステント付き人工弁を大動脈弁のところまでまで誘導し、大動脈弁を押し広げるようにしてステント付き人工弁を留置します。
肋脅の間を小さく切開し(6〜7cm)、そこから折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを心臓の先端(心尖部)を通じて挿入します。
生体弁が大動脈弁の位置に到達したらバルーンを膨らませ、生体弁を広げ、留置します。
生体弁を留置した後は、
カテーテルを抜き取ります。
生体弁は留置された直後から、患者さんの新たな弁として機能します。
提供:エドワーズ・ライフサイエンス株式会社
大動脈弁狭窄症とは心臓弁膜症のひとつで、大動脈弁の開きが悪くなり、血液の流れが妨げられてしまう疾患です。
軽度のうちはほとんど自覚症状がありませんが、病状が進むと動悸や息切れ、疲れやすさなどの症状が現れ、重症になると失神や突然死に至る可能性もあります。
外科的手術が困難な症例とは下記に該当する症例です。
外科手術が困難、または非常に危険であると判断された場合は積極的な TAVIの適応と考えられます。
ご高齢の患者さま(概ね80歳以上)
過去にバイパス手術などの開胸手術を受けた方
過去に胸部の放射線治療を受けた方
肺気腫などの呼吸器疾患のある方
肝硬変などの肝疾患のある方
悪性疾患をお持ちだが1年以上の予後が期待できる方
※ 重症大動脈弁狭窄症とは、健常者で2〜3c㎡ある弁の開放時の広さ(大動脈弁口面積)が、1c㎡未満にまで狭くなっている症例です。
上記条件に該当していても、現時点では TAVI 治療の適用が該当しない場合もございます。
TAVIは胸を全く切開しない、または大きく切開しなくて済み、また従来の弁置換術のように心臓を停止させる必要がなく、人工心肺を使用しないので患者さまの体への負担が少ないのが特徴です。
TAVIは、術後3〜5日で退院が可能となり、術前を併せても 1週間程度の入院期間で治療が完了します。
退院後はすぐに元の生活に戻る事が出来ます。しかも大動脈弁機能は大幅に改善していますから、治療前には出来なかった色々な活動が可能になります。
TAVIはカテーテルを用いて行う治療ですが、安全に治療を行う事が出来るよう、冠動脈形成術やバルーン拡張術などの負担が少ない他の治療と組み合わせて行うことができます。また、さまざまな新しいカテーテルやアプローチ法、人工弁が次々に開発されています。このように患者さまの状態に合わせて柔軟に治療オプションを選択することが出来ます。
手術時間、入院時間が短く、TAVI適応患者さまへの負担軽減が期待されます。
外科的治療 | TAVI(経心尖アプローチ) | TAVI(経大腿アプローチ) | |
---|---|---|---|
平均手技時間 | 5〜6時間 | 3〜4時間 | 2〜3時間 |
平均入院期間 | 約2週間 | 約2週間 | 約1週間 |
2013年10月より TAVI が健康保険適用となりました。
また、高額治療費制度をご利用の場合、費用負担をさらに減らすことが可能です。
指定された抗血小板薬の服用は治療後の合併症リスク軽減のためにも必須となっております。
普段感じないような問題 (出血、痛み、その他不快感や変化等)が現れた場合は、担当医へ問い合わせください。
※上記の記述は個々の患者さまの容態によって異なります。
TAVI治療は、カテーテル治療専門医(主に循環器内科医)、心臓血管外科医、麻酔科医、心臓画像診断専門医やその他コメディカル、事務職員などが、それぞれの専門分野の知識や技術を持ち寄って、患者さまにとって最適と思われる治療法を選択し、治療を行う事で初めて可能になります。
この TAVI治療を担うグループを「ハートチーム」と呼びます。当院でも総勢40名からなる専門のハートチーム体制を整えています。
TAVIは、ハイブリッド手術室 (hybrid operation room; HOR) と呼ばれる、高機能の手術室において治療を行います。
ハイブリッド手術室とは、手術台と心・脳血管X線撮影装置を組み合わせた治療室のことで、手術室と同等の空気清浄度の環境下で、カテーテルによる血管内治療が可能です。この組み合わせにより最新の医療技術への対応が可能となりました。
すなわち外科的に最小限の切開を加えた後、そこからカテーテル治療(内科的治療)に代表されるような低侵襲治療(=体に負担の少ない治療)を行うことが出来るようになったのです。
重症大動脈弁狭窄症と診断されたことを確認。
ハートチームの評価を受け、TAVI の適応条件を満たしていることを確認。
心エコーにより大動脈弁複合体を評価。
CTによリ大動脈弁複合体および末梢血管を評価。
力テーテル法により大動脈弁複合体および末梢血管を評価。
経力テーテル生体弁を留置するためのアクセス経路を決定。
TAVIの実施。
抗血小板薬の服用開始。
約1週間〜10日後に退院し、リハビリを開始。
※1〜6は、短期間の検査入院をして頂き、TAVI に先行して行います。
主治医(かかりつけ医)にご相談の上、
神戸大学医学部附属病院 循環器内科で受診ください。
神戸大学医学部附属病院(代表) 078-382-5111(平日 8:30~17:15)