消化器内科 Gastroenterology
消化器内科 Gastroenterology
近年、消化器内視鏡分野の著しい進歩により、数mm程度のがんも発見できるようになりました。従来は外科手術が必要であった大きな病変でも体にメスを入れることなく、内視鏡的に切除が可能になりました。これまで神戸大学消化器内科は、早期消化管がんに対して最先端の内視鏡治療を多くの患者様に提供して参りました。2019年4月からは、前任の森田医師の指導の下、内視鏡治療をさらに発展させるために、この国際がん医療・研究センター(ICCRC)に消化器内科を開設し、早期消化管がんの患者さんに対して高度な内視鏡治療を提供してまいりました。
しかしながら、早期発見すれば根治が目指せるがんでありながら、胃がんによる死亡者数は男性3位、女性5位、大腸がんによる死亡者数は男性2位、女性1位となっており(2023年)、主にがん検診受診率が未だに低いことが原因と考えられます。当科では、消化管に不調を感じられる皆様に、気軽に専門性の高い内視鏡検査を受けていただけるように体制を整えました。 紹介状なども不要で、お電話にて予約を承ることが可能です。
また、2025年1月より炎症性腸疾患の専門医が赴任いたしましたので、近年著しく増加している潰瘍性大腸炎、クローン病の患者さんの診断・治療を開始いたしました。こちらも、近隣の先生のご紹介以外に、若いころから下痢や血便、腹痛などの症状があっても受診できていない方に、気軽に受診できるようにいたしました。
消化器内科診療責任医師のメッセージ
はじめまして。2024年11月よりこちらに赴任してまいりました大井充と申します。よろしくお願いいたします。2003年に神戸大学医学部医学科卒業後、主に神戸大学医学部附属病院で大腸疾患、特に炎症性腸疾患を中心に研鑽を積んでまいりました。前任の森田先生のメッセージに“患者様にとって、がんと診断されることはショックなことですが、「一期一会」の精神でお一人お一人に最良の結果が出ますように神戸大学医学部附属病院と連携しながら、全力で診療させて頂きます。”という素敵なお言葉がありました。がんに限らず、病気になることはつらいことですが、病気になったのは不幸であるが、この医師に出会えたのは幸せであったと思っていただけるように誠心誠意診療をさせていただきます
対象となる主な疾患
- 早期消化管がん(食道、胃、十二指腸、大腸)
- 大腸ポリープ
- 消化管粘膜下腫瘍(食道、胃、十二指腸、大腸)
- 慢性胃炎
- 逆流性食道炎
- 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)
特色・主な取り組み
「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD: Endoscopic Submucosal Dissection)」
神戸大学消化器内科では、早期消化管がんに対する最先端の治療法として、保険収載がされる前の黎明期である2001年よりESDを導入し、良好な治療成績をおさめてきました。現在では専門施設として県内外より治療難易度の高い症例を多数ご紹介いただいており、国内外からも多くの内視鏡医が研修や見学に来られています。国内のほとんどの施設では、ESDは内視鏡室で内視鏡医による静脈麻酔下に行いますが、本院では麻酔科の協力のもと、手術室で「全身麻酔下」に行っております。これによって術中術後管理がより安全に行うことができ、患者様にとって苦痛なく、より安心して内視鏡治療を受けて頂ける環境を整えました。
- 「名医のいる病院2021」に当科の森田圭紀医師が「食道がんの名医」として掲載されました
- 「国民のための名医ランキング2021~2023, 2024~2026」に当科の森田圭紀医師が「内視鏡検査・治療の名医」として掲載されました
- 「手術数でわかるいい病院2021」に当科の森田圭紀医師の「食道がん内視鏡治療」のインタビュー記事が掲載されました
- 神戸大学病院は「食道がん内視鏡治療数(ESD, EMR)」で全国9位(兵庫県1位)、「胃がん内視鏡治療数(ESD)」で全国22位(兵庫県1位)、「大腸がん内視鏡治療数(ESD)」で全国28位(兵庫県1位)として掲載されました。
- 当科の森田圭紀医師が The Best Doctors in Japan 2022-2023, 2024-2025 に選出されました。
腹腔鏡内視鏡合同手術(Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery: LECS)
食道胃腸外科と共同で、胃粘膜下腫瘍や十二指腸腫瘍に対するLECSにも積極的に取り組んでおります。特に後者においては、大きな病変に対する内視鏡治療単独の安全性が確立されていない現在、より安全で低侵襲な治療法として良好な治療成績をおさめております。
外来内視鏡室でのスクリーニング内視鏡検査
消化器内視鏡専門医が最新の内視鏡システム(AIによる病変検出プログラム、画像強調観察や拡大・超拡大観察)を駆使しながら鎮静下に苦痛の少ない質の高いスクーリング検査を提供いたします。
紹介状なしで、お電話にて予約を承ることが可能です。上部消化管内視鏡検査は、医師の許可がありましたら、朝食抜きで来院されましたら初診当日に内視鏡検査を行うことができます。持病によっては、一度診察し、後日の検査になることもありますので、お電話にて問い合わせください。下部消化管内視鏡検査は事前の準備が必要になりますので、診察の予約をお取りいたします。
女性のための内視鏡検査
女性にとって下部消化管内視鏡検査はどうしても羞恥心の出る検査ですが、女性消化器内視鏡専門医を指定して検査を受けていただくことが可能ですし、あるいは看護師、技士全て検査に携わるスタッフを女性のみで行う「女性内視鏡」を受けていただくことも可能です。
診察・検査全て女性医師を希望される場合、「女性内視鏡外来」をご予約ください。当外来では、上下部消化管内視鏡検査に加えて、「子宮頸がん内視鏡検診」を開始いたしました。最新の内視鏡システムを使用し、子宮頸部を精密に観察します。従来の検査法と比較し、検査に伴う羞恥心・苦痛の少ないことが報告されています。
近年、女性患者数が増加傾向にある大腸がんと子宮頸がんに対して、羞恥心と痛みの少ない内視鏡検査で同時に検診を行うプロジェクトを開始しました。
炎症性腸疾患の診断・治療
炎症性腸疾患は、英語ではinflammatory bowel diseaseと呼ばれ、その頭文字をとってIBD(アイビーディー)と略されます。IBDは、広い意味では腸に炎症を起こす全ての病気を指しますが、狭い意味では「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」のことを意味します。潰瘍性大腸炎もクローン病も今のところ原因がはっきりとはわかっておりません。近年、医学の進歩に伴いIBDの病気のしくみが少しずつ解明され、遺伝や環境、腸内細菌の異常などの要因がさまざまに関わり、体内で免疫異常が起こり発症することがわかってきました。衛生状態が整った先進諸国に多い病気で、欧米型の食生活も関与していると考えられています。また、若い人に発症することが多く、長期的には病状が悪い時期(再燃期)と落ち着いている時期(寛解期)を繰り返すのが特徴です。そのため患者さんは人生の大切な時期を疾患と過ごすこととなります。日本では 1990 年代以降、急激に患者数が増え続けており、推定では潰瘍性大腸炎は30万人(米国に次いで世界で2番目 に多い)、クローン病は10万人を超える患者さんがいると予想されます。潰瘍性大腸炎、クローン病ともに医療費の一部を国が補助する特定疾患(いわゆる難病)に指定されています。
最近では、有効なお薬が数多く出てきたため、症状をコントロールできる患者さんが多くなってきました。IBDが疑われるような症状(下痢、血便、腹痛、体重減少、発熱など)が出現した場合は、医療機関を受診し、早期に診断を受けることが重要です。また、診断後には適正な治療を継続することが必要で、定期的な通院や検査が大切です。
1.潰瘍性大腸炎
血便や下痢、腹痛などの症状が、慢性的に続くのが特徴です。血液検査では、貧血や炎症反応に関する項目の異常を認めることがあります。自覚症状 や血液・便検査の異常が続く場合には潰瘍性大腸炎を疑い、大腸の内視鏡検査により炎症の状態や範囲を調べ診断します。なお、内視鏡検査のときに組織を採取して顕微鏡で調べる病理検査(生検組織検査)を同時に行うこともあります。多くの場合で、診断時に半年以上前から症状を認めます。慢性的な下痢症状がある場合、是非一度ご相談ください。クローン病と違って、高齢でも新しく発症することがあります。
2.クローン病
主に若い人で、下痢や腹痛、発熱、体重減少、貧血などの症状が続くのが特徴です。肛門病変を合併することが多く、患者さんは若い時から痔の治療を繰り返えしていることがあります。肛門部に痔瘻を伴うこともあります。血液検査では、貧血、栄養 状態の悪化、炎症に関する項目の悪化などがみられます。自覚症状や血液検査の異常が続く場合にクローン病を疑い、大腸や小腸の内視鏡検査やバリウムを用いたX線検査を行い診断します。近年では小腸も内視鏡で観察することが可能となってきました。カプセル型の内視鏡検査では一度に小腸を観察することができる利点がありますが、 腸に狭窄があるとカプセルが詰まる危険があるため、事前に同じサイズのダミーのカプセルを内服し、検査ができるかどうか確認します。内視鏡では小腸の炎症の状態や範囲を調べるなどより詳しく観察したり、組織を採取 したりすることもできます。クローン病では、腸に狭窄やろう孔(腸に深い潰瘍ができて皮膚やほかの臓器との 間に通路ができた状態)、膿瘍などを疑う場合は、腹部の超音波検査、CT あるいは MRI 検査を行う場合があります。
潰瘍性大腸炎と比較して、圧倒的に若い患者さん(発症時)が多いです。慢性的な腹痛、微熱があって体重がなかなか増えない方、若い時から痔を繰り返しておられる方で、消化管を詳しく調べたことのない方は一度ご相談ください。
3.IBDの治療
潰瘍性大腸炎では、軽症から中等症までは5ASA製剤と呼ばれる薬と経口の全身ステロイドが基本のお薬です。最近では中等症の患者さんに全身ステロイドを回避するためのお薬も増えてきました。ステロイド治療がうまくいかない難治例ではadvanced therapyと呼ばれる分子標的薬を用います。重症例では神戸大学医学部附属病院と連携して治療にあたります。
クローン病では、栄養療法と薬物療法を組み合わせる治療が基本になります。当院で外来毎に栄養指導を受けていただくことが可能です。中等症以上では、ステロイドや前述の分子標的薬を用います。クローン病は経過とともに腸へのダメージが蓄積し、狭窄や瘻孔などの合併症を起こします。こういった合併症を起こすリスクの高い方は早期の段階から分子標的薬を用います。合併症が進行していた場合は、内視鏡で拡張する方法や、外科的切除術が必要になります。
当科の大井充医師が The Best Doctors in Japan 2018-2019, 2020-2021, 2022-2023, 2024-2025 に選出されました。
医療機器開発
既に内視鏡治療用デバイスとして「スワンブレード®」や「スプリット・バレル®」を上市しております。
また、現在はさらに安全で容易な内視鏡治療を目指して、以下の「医工産学連携プロジェクト」に取り組んでおります。
- 炭酸ガスレーザーを用いた新規消化器内視鏡治療用デバイスの開発
(株式会社モリタ製作所、大阪大学工学研究科、東北電子産業株式会社、ボストンサイエンティフィックジャパン株式会社と共同) - 優れた防汚・防曇性能を有する内視鏡フードに関する研究開発
(株式会社シードと共同) - 消化管腫瘍に対する光線力学診断(Photodynamic diagnosis: PDD)の研究開発
(大阪大学工学研究科、SBIファーマ株式会社と共同 ) - 消化器内視鏡治療における組織保護材の開発
(東洋紡株式会社との包括連携研究) - 消化器内視鏡4K映像5G伝送による「内視鏡遠隔診断・治療支援システムの開発」
(株式会社NTTコミュニケーションズとの実証実験) - 大腸癌における内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)で得られる腸管洗浄液を用いた腫瘍由来成分の検出に関するフィジビリティ研究
(シスメックス株式会社との共同研究)
スタッフ
氏名 | 卒業年 | 専門資格・併任 |
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平成15年 (2003年) |
【専門資格】 医学博士 日本内科学会(認定医、総合内科専門医、指導医) 日本消化器病学会(専門医) 日本消化器内視鏡学会(専門医、指導医) 日本カプセル内視鏡学会(認定医、指導医) 日本炎症性腸疾患学会(専門医、指導医) 【併任】 神戸大学大学院医学研究科外科学講座 国際がん医療・研究推進学分野 先端医療テクノロジー開発・応用学部門 特命講師 |
鷹尾 まど佳 |
平成14年 (2002年) |
【専門資格】 医学博士 日本内科学会(認定医) 日本消化器病学会(専門医、近畿支部評議員) 日本消化器内視鏡学会(専門医、指導医) 【併任】 神戸大学大学院医学研究科内科学講座消化器内科学分野 特命助教 |
阿部 洋文 |
平成22年 (2010年) |
【専門資格】 医学博士 日本内科学会(認定医、総合内科専門医) 日本消化器病学会(専門医) 日本消化器内視鏡学会(専門医) 【併任】 神戸大学大学院医学研究科内科学講座消化器内科学分野 特定助教 |
西川 恵璃 |
平成29年 (2017年) |
【専門資格】 日本内科学会(専門医) 日本消化器病学会(専門医) 日本消化器内視鏡学会(専門医) 【併任】 医員 |
橋本 宏之 |
平成31年 (2019年) |
【併任】 医員 |
小川 健仁 |
平成30年 (2018年) |
【併任】 医員 |
白木 文 |
平成29年 (2017年) |
【併任】 医員 |
新丸 尚輝 |
平成30年 (2018年) |
【併任】 医員 |
和田 友紀 |
平成30年 (2018年) |
【併任】 医員 |
森田 圭紀 |
平成8年 (1996年) |
【専門資格】 医学博士 日本消化器内視鏡学会(専門医、指導医、近畿支部評議員、社団評議 員) 日本消化管学会(胃腸科認定医、専門医、指導医、代議員) 日本消化器病学会(専門医) 日本レーザー医学会(理事、関西支部評議員、本部評議員、編集委員) 日本内科学会(認定医) 日本食道学会(食道科認定医) 気道管理学会(評議員) 厚生労働省臨床修練指導医(Certificate of Clinical Instructor ) 【併任】 神戸大学大学院医学研究科 医療創成工学専攻 医療機器学講座 精密診断治療機器学分野 特命教授 神戸大学未来医工学研究開発センター 治療機器開発部門 副部門長 神戸大学医学部附属病院International Medical Communication Center (IMCC) 副センター長 神戸薬科大学 客員講師 近畿大学医学部奈良病院 客員講師 中国瀋陽軍区総医院 客員教授 中国青島大学 名誉教授 |
※当院では神戸大学医学部附属病院 消化器内科スタッフと一緒に診療を行っています。
受診について
2025年4月より定期検診や炎症性腸疾患の診療に対する相談、女性内視鏡外来につきましては、お電話にてご予約いただけます。炎症性腸疾患の診療につきましては、地域の先生からのご紹介も可能です。
内視鏡検査相談 第1、第3月曜午前、第1、第3金曜午前
月、水は医師との相談の上、初診時に上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)を受けることができます。
炎症性腸疾患の診療 水曜午前
女性内視鏡外来 第1、第3金曜午前
※ESDなどの高度な内視鏡治療につきましては、今まで通り神戸大学医学部附属病院(本院)の受診が必要です。「消化器内科 森田(金曜日)」または「消化器内科 鷹尾(月曜日)」までご受診下さい。
患者様へ
地域医療機関の先生方へ
連絡先:FAX 078-382-5265(地域医療推進室)
受付時間:平日8時30分~17時