てんかんの内科的治療

てんかんの治療は2回目の発作が出現した場合には、再発の危険性が高いため抗てんかん薬の治療開始が勧められています。ただし、初回の発作でも神経学的異常、脳波異常、脳画像病変またはてんかんの家族歴がある場合、高齢者、患者の社会的状況から望ましい、希望がある場合には治療開始することがあります。

てんかんの治療薬は、発作型、およびてんかん(症候群)診断をもとに選択します。抗てんかん薬は少量で開始して漸増していきます。最初の抗てんかん薬で発作が抑制されず、無効と判断された場合には次の薬剤を投与します。適切な抗てんかん薬を単剤、もしくは併用で、1~2年で、2剤試みても発作が抑制できない場合は薬剤抵抗性(難治性)てんかんと判断され、外科的治療などが考慮されます。約3割の患者さんは薬剤抵抗性です。そう判断された場合は、漫然と現在のお薬を継続せずに、かかりつけの先生からてんかん専門施設・専門医に紹介いただき、診断の見直しや外科治療(てんかん焦点切除術や緩和治療)の適応などを検討することが大切です。てんかんの病気の種類によっては、薬で発作が止まらない難治の患者さんでも外科手術で発作をなくすことができますので専門医にご相談ください。

脳細胞の電気活動は興奮(いわばアクセル)と抑制(ブレーキ)で調整されており、抗てんかん薬は神経の興奮を抑えたり、抑制を強めたり(抑制系の伝達物質を増す)することでてんかん発作を抑制します。

単剤で効果がない場合は、作用部位・機序の異なる薬剤を併用することもあります(合理的併用療法)。副作用としては、抗てんかん薬全般に言えることですが、服薬量が増えると眠気・ふらつきがでることがあります。重篤な副作用として薬疹が挙げられます。目やのどにも薬疹(粘膜疹)が出現する、発熱を伴う場合は薬疹が重症化することがありますので、薬疹が出現すれば主治医に直ちに相談してください。精神症状がでやすい薬、他の薬と飲み合わせが悪い(相互作用がある)薬もありますので、主治医や薬剤師にしっかりと薬の副作用を確認してください。

図 抗てんかん薬の主な作用機序

AMPA: α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸 (α-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazole propionic acid); GABA: γ-アミノブチル酸 (γ-aminobutyric acid); NMDA: N-メチル-D-アスパラギン酸 (N-methyl-D-aspartate), SV2A: シナプス小胞タンパク質2A (synaptic vesicle glycoprotein 2A)。脳科学辞典 抗てんかん薬より引用。

成人・小児てんかんの第一選択薬

国内外のガイドラインを参考にして、成人・小児てんかんの発作型ごとの第一選択薬を紹介します。なお、最近、保険収載された新しい薬はガイドラインにはまだ反映されていません。

成人てんかんにおける第一選択薬

焦点発作

カルバマゼピン(テグレトール)、レベチラセタム(イーケプラ)、ラモトリギン(ラミクタール)

全般発作

強直間代発作(全般強直間代発作とも言います)

バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、妊娠可能年齢には低い催奇形性から、レベチラセタム(イーケプラ)、ラモトリギン(ラミクタール)が推奨されます。

  • ※2023年2月現在 レベチラセタムは全般強直間代発作に対しては、他剤で十分な効果が得られない場合の併用療法としてのみ適応となっています。
ミオクロニー発作

バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、クロナゼパム(リボトリール、ランドセン)、妊娠可能年齢には低い催奇形性から、レベチラセタム(イーケプラ)が推奨されます。

小児てんかんにおける第一選択薬

焦点発作

レベチラセタム(イーケプラ)、ラモトリギン(ラミクタール)

全般発作

全般強直間代発作

バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、妊娠可能年齢には低い催奇形性から、レベチラセタム(イーケプラ)、ラモトリギン(ラミクタール)が推奨されます。

  • ※2023年2月現在 レベチラセタムは全般強直間代発作に対しては、他剤で十分な効果が得られない場合の併用療法としてのみ適応となっています。またレベチラセタムは4歳未満、ラモトリギンは2歳未満に対する小児に対する安全性は確立していません。
欠神発作

エトサクシミド(ザロンチン、エピレオプチマル)

ミオクロニー発作

バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、妊娠可能年齢には低い催奇形性から、レベチラセタム(イーケプラ)が推奨されます。

強直または脱力発作

バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、妊娠可能年齢には低い催奇形性から、ラモトリギン(ラミクタール)が推奨されます。

特発性全般てんかん

バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、妊娠可能年齢には低い催奇形性から、レベチラセタム(イーケプラ)、ラモトリギン(ラミクタール)が推奨されます。
その他、小児においてはてんかん症候群ごとにそれぞれ推奨される薬剤が異なります。

ケトン食療法

断食によるてんかん治療の記述は紀元前から見られますが、近代のケトン食療法は、1921年にWilderらが断食による効果はケトン血症によるものと考え、ケトン血症を起こす食事を考案したことが始まりです。その後、抗てんかん薬の開発が進んだことにより、一時期注目されなくなっていましたが、1991年のグルコーストランスポーター1(GLUT1)欠損症の発見などをきっかけに再び脚光を浴びるようになりました。日本においては2016年にケトン食療法が「てんかん治療食」として保険適用が認められました。

ケトン体は絶食などで糖が不足した際に、エネルギー源として脂肪や蛋白質を原料に産生されます。古典的ケトン食は炭水化物の摂取を抑えて脂肪を多く摂取することで、絶食しなくても体内でケトン体が産生されるように考案されました。その後、アドヒアランスや低血糖などの副作用の軽減のために、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)ケトン食や修正アトキンズ食などが開発されています。

ケトン食療法は、日々の栄養を厳密に管理する必要があり一般的に内服治療に比べて継続することが難しいため、当院ではケトン食療法が著効するGLUT1欠損症を除いては、一部の難治てんかんの患者さんに提案しています。

参考文献

外科的治療について

てんかんの外科的治療については以下のページをご覧ください。

てんかんの外科的治療

https://www.hosp.kobe-u.ac.jp/epilepsy/geka_chiryo/